ビーチ&ガーデンウエディングの楽しさはよく知られている。
日本からも新婚旅行を兼ねて挙式するカップルも多い。
もともと移民の国、東海岸に広がる空のように、
婚姻制度は開かれていて、移住者にはやさしいのか。
好きな場所で好きなように挙式するのがオーストラリアの流儀。
逆に、祖国日本の制度はどうなのだろう。
ニュージーランドやオーストラリアでの結婚式はかなり自由だとか。
20年近く前のことなので、あまり覚えていませんが、結婚式、披露宴は、日本と大きな違いがあるようです。
私の場合、妻の希望を入れて一切宗教色のない結婚式をNZ(ニュージーランド)で挙げました。式場はテニスクラブの庭を選んだのですが、当日、雨にたたられてしまい、ファンクションルームで済ませました。
NZでは宗教離れが進んでいますから、教会外で挙げる結婚式も多くなっているそうです。
日本では、結婚式、披露宴というと大体場所は決まっていますが、ANZ(オーストラリアとニュージーランド)では、自分たちの好きな場所で式を挙げるケースが多いのです。ここケアンズでは、海岸で挙式するのをよく見かけます。
ANZには、結納や仲人などというしきたりはありません。そのかわりマリッジ セレブラント(結婚執行人)が、式を取り仕切ります。式そのものは30分くらいで終わります。
私の場合は、教会とは異なって、好きな音楽を流したり、友人に詩を朗読してもらったりと自由な雰囲気でした。
最後にマリッジ セレブラントの立会いの下、カップル2人とカップル夫々から証人を一人ずつ出して、計4人が誓約書に署名して式は終わりました。
結婚式で驚いたようなことは?
式が終わっても、新郎新婦には写真撮影という大仕事が待っています。
新郎新婦とベストフレンド一人ずつ計4名、身内から数人を選んで、リボンをつけた車に乗り、あらかじめ選んでおいた場所を巡って撮影するのです。このクルーが戻ってくるまで約2時間かかりました。
ビーチや公園、ランドマークの建物が人気のスポットです。結婚式は週末が多く、だいたい午後3時頃に結婚式が始まり、撮影が終わって披露宴の会場に戻ってくるのが6時頃。それから披露宴が延々と続きます。
ところで、NZでは、披露宴の費用を新婦側の両親が負担するというのがしきたりのようで、私の場合も妻側が負担したのですが、私の両親は非常に恐縮していました。70人ほどの招待で日本円で40万円くらいでした。
最近では、新郎新婦の両親が折半することも普通になりました。披露宴に出席者は祝儀ではなく、プレゼントを持参します。食器、皿、照明器具、置物などのプレゼントが宴会場の入り口にずらっと並んでいたのを覚えています。
国際結婚という点での特別な手続や制度は?
誓約書を政府の機関「District Office of Births, Deaths and Marriages」に出して、婚姻証明書をもらうと法的なお墨付きとなります。
それから、領事館を通して日本の郷里の役場に婚姻証明書を出し、戸籍に載せてもらいました。
届け出の際には、日本の本籍地から戸籍なり住民票を取り寄せます。役所が重婚になってないかどうかを調べるためで、過去の私の履歴の載った公文書が必要だからです。
これはどの国でもやっているチェックだと思いますが、外国人登録は日本だけなようでANZにもありません。
結婚後は、婚姻証明書を取得する時に、日本の役所と関わる程度で、永住権者としてビザを定期的に更新するだけです。
ANZでは、永住権と市民権に大きな違いはありません。とくに、NZでは永住権者にも参政権が与えられますし、陪審員にもなれます。ですから、国際結婚特有の手続きや注意点はあまりないと思われます。
なお、戸籍に限らず住民票制度も日本だけではないでしょうか。
名前をどうするかについては、話し合われましたか?
妻は私の姓を名乗りたいと始めから言っていたので話し合うほどのことはありませんでした。
子どもについては、日本語、英語に共通の名前が良いと話し合いました。本人のためにも日本人、ANZ人双方にとって発音しやすいほうがいいと考えたからです。
国籍については、いかがでしょう。
妻も私もオーストラリアでは外国人なのですが、選挙権以外に、永住権と市民権では違いはなく、国籍をどうするかといったことを実はまだ話し合ったことがありません。
私自身は日本人であることに拘りがあり、日本国籍を捨てることはないでしょう。一方、妻や子どもは、NZに誇りを感じているようですし、オーストラリアの市民権を取るつもりはないようです。
日本でも国際結婚は増加の傾向にあります。
オーストラリアでの国際結婚を比較して、どう思われますか。
オーストラリアでは、習慣や価値観の違いからくる難しさはありますが、制度面で難しいと感じたことはありません。
一方、日本はまだ閉鎖社会のようで国際結婚にはさまざまな障害があるだろうことは推測しています。
具体的なことはわかりませんが、おそらく外国人配偶者のための日本語教育、就業支援、カウンセリング、社会保障など、制度面では不十分なのではないでしょうか。
このような不備は、日本の閉鎖的体質と組織内の硬直的な人間関係から派生していると思います。学歴社会や行政の縦割り、縄張り意識などと根は同じです。
こういった意識を変えていくには、異質なものを排除せず、一人一人皆違うのだから違うことをむしろ個性だと評価できる社会、外から来る者を拒まない体質を作っていくことではないかと思います。
例えば、外国人登録のように無くてもいいものは思い切ってなくし、あるいはもっとスリムにするか、または低コストで効率的な方法に切り替えるなりして、余ったお金をもっと必要なところへ行き渡るような社会の仕組みを作っていくことも一方法ではないでしょうか。そうなれば、日本は自ずと外国人居住者にもずっと「やさしい国」ていくのではないでしょうか。
住民票制度にしても本当に必要なのかどうか、ANZに住んでいるとつい疑問に感じます。
社会保障制度も外国人居住者には障害が多いのではないでしょうか。日本は基本は積み立て方式になっているようですが、これだと途中から日本に移住する外国人は非常に不利で、場合によっては弾かれる場合も出てくるでしょう。
ANZは基本は賦課方式ですから、途中からやって来る外国人永住者でも、例えば年金のように一定の条件を満たすことで、65歳になれば、皆平等にもらえる仕組みになっています。
失業保険も積み立てではありませんから、失業していれば途中からやって来た外国人永住権者でも手当がもらえます。
勿論、弊害もあります。でも、ANZの社会は、そういった問題も風通しのいい社会であるためには止むを得ない一つのコストと割り切って、それを堅持することのメリットの方に価値を置いているように思えます。
オープンな社会とはシンプルな社会であり、横(組織間)や下(住民)からの意見やエネルギーを反映しやすい社会でもあります。そうなると、原発や津波のような危機管理にも臨機応変に対応できるし、外国人にも優しくなれるはずです。
国際結婚でこそ得られる幸福感や楽しさというものは?
国際結婚も異文化交流の一つの姿です。
国際結婚ですから習慣の違いはつきもの、仕方ありません。ただ、価値観の違いは時に口論まで発展することがあって口で言うほど容易ではありません。ストレスも溜まります。
しかし、ものには全て背景があって道理があります。偏見や先入観を捨てて相手の立場に立って考え直してみると、意外に理解できる場合があって「ああ、なるほど。そういうことだったのかあ」と。
自分の狭量を恥じるとともに、もう一つ違う世界が広がったように思え、充実感を覚えることがあります。
ただ、性格的な違い、これは仕方ないですね。
オーストラリアにおける「家族」の印象は?
この違いは日本とANZでは大きいと思います。
日本で残業ばかりやっていた私は、結婚当初も、つい仕事優先の生活をしてしまい、妻からよく小言を言われたものです。仕事と家族、どっちが大切なのと。
ANZは、個人の生活をとても大切にします。仕事より、家族が大事なのです。
日本で地方行政に関わっていた私は、出先勤務の一部を除いて、残業残業漬けの日々を送っていました。残業するほど評価される雰囲気が日本全体に根強く残っていた時代です。
すると、やがて空しさを感じるようになっていきました。家族を犠牲にして仕事を優先にしている限り、住みよい社会は作れないと思うようになったからです。
ヨーロッパやNZを旅行してみて、つくづくそう思うようになりました。歩道や公園を歩くと、よく整備されており、しかもまわりの景観とよく調和しています。これは政治や行政が「家族」が楽しむ場を大事にしていることの証のような気がします。
また、ANZでは、英米の政治家と同じように、公の場に、パートナーだけでなく家族を連れてやってきます。これも、いかに自分は家族を大事にする人間であるかをアピールしている一種のパフォーマンスでしょう。
国際結婚は、日本の「家族」のあり方を変えるでしょうか?
国際結婚が増えれば、その可能性は少なくはないと思いますが、今のままでは変わるとは思えません。それは表面的なもので日本社会の「内側」の部分は変わっていないと思うからです。
変わっていくには、変わっていけるだけの社会的環境が整備されなければなりませんが、そのためには、学校や家庭など、いろんなレベルで、家族というものが何にもまして大切なことだというコンセンサスを作り上げ、内側の意識を変えていくこと必要だと思います。
あなたにとって、家族とは?
個人と並んであらゆる社会生活の基本単位。
人間にとって一番大切なもの。政治も行政も民間活動も全てそこに最大の価値を置くべきものと考えます。
伊達周作 Date shusaku だて しゅうさく
立教大法学部卒、NZ教員養成大学卒
NZリンカーン大学リクリエーション学部日本語講師、豪州で幼稚園、小中高等学校で日本語教師、傍ら観光ガイドなどを務める。
現在、ニュージーランドで国際結婚し、現在、妻、息子とともにオーストラリアに在住。